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長いお別れにむけて

木で出来たひよこのようなもの

わたしの勤めている場所はとても人が多いので、行きも帰りも人の間を縫うように歩かなければならない。どこもかしこも人で溢れていて、わたしだってそのうちのひとりでしかない。駅の構内にはあちこちであらゆるものが売られている。そういった店のひとつに、よく分からぬ木で出来たひよこのようなものが並べてあった。わたしはとても目が悪いので、きっとあれは木で出来たひよこではないだろうが、わたしにはそう見えた。それらはくすんだ光の下でしんと並んでいた。そこには音がなかった。音がない、ということに気がついたとき、わたしの目から涙が溢れてきて止まらなくなった。悲しくもないし辛くもないし痛くもないのに、自分でもどうしてだか分からないけれども、とにかく涙が溢れてきてしまった。人がわんさといたが、誰もわたしが泣いていることには気がついていない。誰もが縫うように、泳ぐように、少しばかり苛立ったように、歩いていた。そのまま誰にも気がつかれないように歩き始めて、やがて涙はぴたりと止まった。あのひよこと思しきなにかの正体を確かめればよかったなと思ったが、すぐに、ああいうものは謎めいたままの方が良いんだろうな、と思い直して、クイーンの「地獄へ道連れ」を聴きながら改札をくぐった。




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