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長いお別れにむけて

撤退戦

ひとつひとつは小さな不安なのだけれど、それが集まって大きな波みたいになって、なんとも漠然とした不安が襲ってくるのだ。とある人についこぼしてしまった。その人は、静かに(いつだって静かに話す人だけれど)、それ、芥川だよ、と言った。漠然とした不安、ってさ。そう言われて初めて、わたしは自分が口にした言葉が芥川龍之介のそれであったことに気がつく。だけどこれ以外になんと言っていいのかもわからない。



いつだって自分を救うのは自分なのだと繰り返す。わたしは「漠然とした不安」の大波を頭から被って、呼吸を止めて、やり過ごそうとする。波はいつか引く、わたしはしんだりしない、わたしはだいじょうぶ、わたしを救うのはわたし、そんなことを何度も頭のなかで繰り返し唱える。波のなかで、見上げる。光がきらきらしているのを見つめる。でもすぐにもっと大きな「漠然とした不安」がやってきて、かき消されていく。



敗北につぐ敗北のすえに敗北を抱きしめて尻尾をだらしなく丸め込んで歩いていく犬、あれがわたしだ、と思う。わたしは少しずつ進む(逃げているのか進んでいるのかもわからない)、とにもかくにも撤退戦だ。決まりきっている敗北を目指すのみ。



まあ、とにかく、そういうときは寝ることだよ、とその人は言った。わたしは眠ろうとする。でもきっと目覚めても「漠然とした不安」はそこにいるだろう。わたしはまだ波の底で撤退戦を続けるに違いない。




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