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長いお別れにむけて

意識

苦しくなる。他人のしあわせがわたしを押しつぶそうとする。呼吸の仕方を忘れる。笑ってごらん、と言われてもわたしは笑うことが出来ない。写真は嫌いだ、笑えないしどこを見たらいいのかもわからないし出来上がった写真の自分を見たくなどない。どうやって瞬きをする? 舌の位置はどこ? 呼吸の間隔は? そんな些細なことにいつも絡め取られて動けなくなる。階段がうまく降りられないのは、「次にどちらの足を出せばいいのかわからなくなる」から。一瞬迷って足を止めてどこを見ても誰もいない、みんなさっさと歩いていく。なぜわたしはこんな簡単なことも出来ないのか、などと考えるより先に冷たい汗が背筋を流れ出す。こわい。置いていかないで。世界は歪む。いやに眩しく見える。ある音は大きく、ざわめきは遠くなる。フラッシュ。シャッター。汗が落ちる。笑ってごらん。握りこぶしなんてやめて、ほら、ピースをしてごらん。掌は汗でべとべとしている。目を覗き込まれて萎縮する。目を見ることは敵意と同じだ、と思う。君は動物ではない、人間だろう、目を見ることはコミュニケーションだ、と言われる。目をつぶる。目の裏に紐状の輝く虫と七色の光の粒が波のように大きく蠢く。それだけはいつも確かにある。



目を開ける。いつもより少し人出の多い街。わたしの働いている街、あれはわたしがこれから乗る電車。ねえ君って一体どこの世界の人なの、と訊かれて、何もこたえられない。この世界に対する心地悪さ、居辛さをいつも感じている。わたしは、多分、海からきたんだと思う。目の要らない暗くて冷たいところ。そこでのコミュニケーションは光だよ。知ってる? だから地球上で一番使われているコミュニケーション方法は光なんだよ。地獄のような色合いの夕暮れ。笑ってごらん。わたしは狐面の下でにたっと笑った。嫌悪される笑顔で。



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手羽先700
性別:
非公開

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